machikochi(マチコチ)

※こちらの記事は、「SAISON CHIENOWA」より流用しております。<流用元:https://www.saison-chienowa.jp/articles/EIi2Ywf2?page=1

近年、副業やテレワーク、男性社員の育児休暇の取得など、働き方の選択肢は広がりをみせています。なかでも女性は、出産や育児というライフイベントに密接なため、自分のライフスタイルやスキルを見直したときに、果たしてキャリアアップすることだけが正解なのか、それとも違う働き方もあるのか、悩む人は少なくありません。

政府は2020年までに女性管理職比率30%という目標を掲げ、女性の役職登用を推進しています。しかし、日本最大級のファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営する株式会社ZOZOで人事本部管掌取締役を務める大石亜紀子さんは、「出世を選ばなくても良い」と語ります。多様性が重視される現代で、女性はキャリアとどう向き合うべきなのでしょうか。そこで、女性社員が7割を占めるクレディセゾンの取締役営業推進事業部長・武田雅子と、対談を行いました。

ファシリテーターを務めるのは、短時間勤務のワーキングママとして、管理職ではないもののチームリーダーを任されているCHIENOWA編集長の栗田宏美。いままさにキャリアの分岐点にいる栗田に、管理職の道を選んだ二人が語ったこととは?

取材:栗田宏美(SAISON CHIENOWA)

構成:タナカヒロシ 撮影:豊島望

 

プロフィール

大石 亜紀子(おおいし あきこ)
2002年に株式会社スタートトゥデイ(現株式会社ZOZO)に入社。2007年6月に取締役に就任(当時30歳)。プライベートでは31歳のときに第一子を出産。同社初となる産休を取得した。
https://www.starttoday.jp/

武田 雅子(たけだ まさこ)
1989年に株式会社クレディセゾン入社。カードカウンターに配属後、全国5拠点にてショップマスター(カウンターの責任者)を経験。2002年に営業推進部業務統括課、2003年に営業計画部トレーニング課・人事部人材開発課 課長に就任。2008年には女性初の人事部長となり、現在は取締役 営業推進事業部長・戦略人事部キャリア開発室長を務める。

 

「チャレンジしてみようかな」という気持ちを、まずは信じてみる

ーさっそくですが、お二人のキャリアアップのきっかけと、そのときの心境をお聞きしたいです。

大石:私が管理職になった2006年は、ZOZOTOWNが立ち上がったばかりのころ。まだ会社が小さくて、当時いた社員の多くが管理職になったんです。女性は私一人だったので、同じ土俵に乗せてもらえたうれしさもあったし、不安もあったけど、みんなでやるしかないという状況だった。きっかけはそういう理由でしたが、責任を持って頑張ろうと自分の意思でスタートしたので、後悔はありません。

ー武田さんが管理職になったときは、どういう状況だったのですか?

武田:私は23歳のときにカードカウンターのショップマスターという役職に就いたのですが、当時全国170店舗のショップマスターのなかで、いちばん年下だったんです。当然マネジメントの知識なんて何もない状態でしたけど、少なくとも前任者より上手にできる自信はあって。同じ建物に入っているテナントさんからも「武田さんがマスターになったほうがいいよ」と言ってもらえたことも大きかったですね。

だから、「いまよりも働く環境をマシにできるなら、やってみようかな」と思ったの。まぁ、いざやってみると、全然うまくできなくて泣く毎日が続くんですけど(笑)。

左からファシリテーターの栗田(クレディセゾン)、武田(クレディセゾン)、大石さん(ZOZO)

 

ーでは、お二人が管理職やショップマスターになると腹をくくったのは、任命されたタイミングということでしょうか?

武田:そうですね。私は言われた瞬間だったかな。自分が管理職になることにそれなりの覚悟がないと、チームメンバーにも迷惑がかかってしまいますから。少し前のお話ですが、民間企業の女性幹部などによる相互交流・研鑽目的で2007年につくられたNPO法人のファウンダーが、当時「キャリアの馬に乗ったら降りるな」と語っていました。それは、「一度決めたら覚悟を持って取り組む」ということ。私はそのとき、すでに管理職の立場でしたが、任命された当時もこのような気持ちを持っていたことを思い出しました。

大石:私は腹をくくったというよりは、社長の前澤(友作)だったり、創業時のメンバーだったり、選んでくれた人を信じていた部分があって。もし私が管理職としてダメだというときは、向こうからタオルを投げてくれるだろうなという安心感があったので務めることができたんです。

武田:素晴らしい信頼関係ですね!

大石:腹をくくるのは素晴らしいことですけど、嫌だったらやめればいいし、責任感に追われて自分を犠牲にする必要もないと思うんです。来たチャンスに対して、ちょっとでも「選ばれてうれしい」とか、「チャレンジしてみようかな」とか、そういう前向きな気持ちがあるから悩むと思うので、その気持ちを信じて、あとは選んでくれた人を信用すればいいのかなと思います。

ー会社も、この人ならできると思って、オファーをするわけですもんね

大石:そうですね。会社や上司の決断を信用できないなら、そもそも会社とその人が合わないのかもしれない。もちろんメンバーに迷惑をかけてはいけないので、リーダーや管理職になることを決めたのなら、一生懸命頑張るしかない。ただそれだけだと思います。

だから、明日全力で頑張れるかどうか。それが覚悟のきっかけでいいんじゃないでしょうか。理想のライフスタイルや家庭を投げ打つ覚悟という意味ではなく、明日も楽しくやれそうかなとイメージすることが大事なのかもしれません。

 

自分のキャリアにおいて、誰かのマネをする必要はない

ーマネジメント経験がない人は、管理職やリーダーになることに対して、敷居の高さを感じているのかもしれません。

武田:きっと私や大石さんは、深く考えないで、川の流れのなかでここにたどり着いていた。だけど、キャリアをすごくマジメに考えている人にとっては、管理職になること自体がすごく高い塀になっちゃっている。とはいえ、立場が人をつくることもあるんですけどね。

あと、どんな上司を見てきたかも大きく影響すると思います。「武田さんでもできるんだから」とか、その逆で、「武田さんのようにはできない」とか。

ー周りと比べてしまうんですね。

武田:私を見て、「武田さんのようにはできません」って、できない理由を探す人がいたら、「それはそうだよ。だって、あなたは私ではないのだから。あなたはあなたのやり方でやればいいんだよ」と話します。自分のキャリアにおいて、誰かのマネをする必要はないんです。

 

大石:うちの管理職は、課長、部長、本部長の3レイヤーなのですが、いわゆる一般職から課長に上がるタイミングで、お給料がバッと上がるんです。ただ、責任が伴うというところで天秤にかけたときに、男性だったらやりがいやお金がプレッシャーに勝る傾向があるかもしれないけど、女性はプレッシャーと対価を天秤に乗せたときに不安になるというのは、なんとなくわかりますし、それは私も一緒です。

ただ、本人の好みというか、なる、ならないの選択肢はあるわけなので、好きなほうを選べばいいと思うんですよ。基本的に会社はキャリアに対してそっぽ向いてる人をいきなり選任することはないと思うんです。

武田:管理職のメリットという意味では、裁量もありますよね。自分で決断できる人や、自分の優先順位や価値観で進めていったほうがいい人はメリットがある。そういうタイプの人は、管理職になって裁量を持ったほうが間違いなく仕事が早く進みます。いちいち報告せずに、責任を持ってどんどん好きに進めていいというのは管理職になることの大きなメリットかな。

 

女性が活躍するために「女性管理職が増えたほうがいい」は、本当?

ー女性管理職だからこそ細かいところに気がつくとか、そういう特性を感じたことはありますか?

大石:女性だからというよりは、適材適所ですよね。女性管理職が活きる現場というのは、そもそも女性が活躍しやすい業務内容だったり、女性の好みを活かせる部門になっていたりすることが多い。そういう現場では女性リーダーが増えるのも必然で。でも、同じ業務で男女どっちのほうが気が利くとか、比べたことはないですね。男性でも細かいことに気づく人はいます。

そもそも女性のマネジメントは女性がしたほうが良いとか、女性がいきいき働く組織にするために、女性管理職が増えたほうが良いっていうのは、「本当にそうなのかな?」と私は思っています。みんなで豊かに働けるマネジメント能力があればいいわけで、それは性別の問題ではないのかなと思います。

 

武田:女性でも大雑把にざくざくと進む人もいれば、ものすごい気配りができる男性もいますよね。ただ、会社全体の話をあえて言うと、クレディセゾンでは、やっぱり男性管理職がベースになったルールで動いていることが、けっこうあるんです。

だけど、物事を決めるような重要な会議には、男性だけでなく、女性や外国人、ハンディキャップのある人など、いろんな視点を持った人たちが参加したほうが良くて。やっぱり昔の習慣に引っ張られていることはまだまだあるので、そういうところはなくしていきたいですね。

アシストが得意な社員を、女性推進だからといってリーダーにするのは本末転倒

ーとはいえ、決定のテーブルにつくことに対して、ためらう女性社員も多い印象があります。そういう資質は管理職として必要なものでしょうか?

大石:ZOZOは物流も自前で行っており、業務の幅が広いので、何よりも現場の社員がやりやすい選択をすることが、生産性にも結びつく場合が多くて。なので、創業時は、みんなの意見をまとめたり、考えを引き出したりするのが上手な人がリーダーになる傾向がありました。もちろん適材適所という意味で、いろんなタイプがいろんな現場で活躍できれば、それでいいのかなと思いますね。

それに、アシストが好きな人もたくさんいるじゃないですか。女性推進だからと言って、アシストが得意な女性をリーダーに抜擢しちゃうことは、どの会社にもありがちだと思います。でも、アシストに徹したほうが力を発揮して、輝く人もいる。私も会社のトップに立つよりはアシストが好きなので、素晴らしいリーダーがいたら、その人の役に立ちたいと思うタイプなんです。

武田:大石さんと社長の前澤さんの関係が、まさにそうじゃないですか? 私もじつは、リーダーっていう役割をするのはクレディセゾンに入ってからなんです。学生のときは二番手とか、こっそり後ろで糸引くとか、そういうタイプだったから。だから同級生たちからは、「ちゃんとできてるの?」って心配されるんです。

仕事をロングスパンで見たら、降格もキャリアチェンジもなんてことない

ー先ほど、ダメだったらタオルを投げてもらえると話されていましたけど、いまお二人はリーダー的なポジションの人にタオルを投げる立場になられています。もしうまくできなかった人がいた場合、どのような判断をされるんですか?

大石:リーダーといっても、係みたいなものじゃないですか。だから、厳しいなと思ったら、サブリーダーになってもらったり、普通のメンバーに戻ってもらったり。もちろん本人の要望に合わせてですけど、別の部門で再チャレンジしてもらうこともあります。それはその人の失敗ということではなくて、その人を指名したトップが最終的には全責任を持つということ。

だから部下も上司の能力や判断を信用してほしい。自分で自分のことはあんまり見えないじゃないですか。上司が客観的に見て、選んでくれたキャリアを信じるという選択肢もあると思うんです。私の場合は、選んでくれた上司の期待に応えなきゃというのがモチベーションになっていた部分もありましたから。

武田:クレディセゾンは、もともと降職や降格をナチュラルにやっている会社で、敗者復活も頻繁にあるんです。どちらかというと、同じ部門で降りるよりは、一旦違う部門に行って、そこからまた役職者になることが多い。だから本当に適材適所なんですよ。部署によって求められる能力は違うから。営業で活躍できなかった人が、コールセンターですごい能力を発揮するとか。だから、ロングスパンで見ると、なんてことないという感じです。

大石:うちも適材適所で活躍するケースはよくあるので、一緒ですね。

 

「キャリアを取らない」という選択肢をしてもいいですか?

ー自分を過小評価して、キャリアアップに尻込みしちゃう人や、女性活躍推進とかにプレッシャーを感じている人もたくさんいると思うんです。そういう自信を持てない女性たちに、メッセージをいただけますか?

大石:私は、「なんで自信がないか」という自問自答を繰り返すしかないかなと思っていて。漠然とした不安が何から来ているのか、ロジカルに整理してみると、家庭の事情に起因していて「会社関係なかったじゃん」ということもあって、対策は見つかってくると思うんですね。そもそも仕事が合っていないとか、これ以上この分野で勉強する意欲がないとわかれば、転属を希望するという選択肢も生まれる。

まず何が不安なのかを突き詰める。そこの向き合いが足りないまま、自信がないというのはもったいないと思います。もし自信がなくて断ったとしても、それに向き合う機会をもらえたことに感謝できるといいんじゃないかな。自分と深く向き合う機会を持てたことは有益なことですよね。

武田:素晴らしい考えですね!

大石:責任ある立場になると、そういう課題がいっぱい降ってくるんです。そのたびに出てきた課題を解決したり、策を立てたりすることが、自分の成長になる体感は私自身あって。キャリアアップをフィールドアップと捉えてみてもいいかもしれません。

ーでは、キャリアアップしないという選択をしてもいい?

大石:それもいいと思います。もっといまの業務を専門的に勉強してから、自信を持って前に立ちたいなという結論に達してもいい。勉強しようという意欲が起きたことは大きなメリットです。

たとえば、キャリアと向き合ったときに、みんなの信頼はあるけどリーダーとして引っ張っていくのは苦手だから、チームのアシストをしたいと思ったのなら、それを上司にちゃんと伝える。「チームバリューを出せるように貢献したい」と自分の意志を言えたら、素晴らしい人材だと気づいてもらえると思います。立ち止まっていろいろ考えられる機会があるというのは、本当にいいことです。

武田:自分が気づいていないだけで、働き方にはいろいろな選択肢があるはずです。最近会社のみんなに言っているのが、「どんな人にも強みがある」ということ。そしてその強みは誰かと比べるものではなくて、自分の経験や行動から見つけるもの。自信のない自分でも好きな部分はあるはずなので、そこを活かして次のステップをつくってくれたらいいなと。

あとは、管理職のオファーを受けたら、ハンカチ落としで自分の後ろにハンカチが来ちゃったと思って、ちょっと走ってみるのもいいと思うんです。だって、チームでやっていくわけだし、自分も助けたり、助けられたり、これまでもしてきたはずですよね。私自身も役員になるときは、自分がならないといけないと考えるのではなくて、みんなのためになるんだと思ったら、ちょっと楽になったから。そんな気負わなくていいと思うんですよ。

上に行きたい人にとって女性活躍推進はチャンスでもある

ー自信がないまま管理職になるのは良くないですか?

武田:自信のない人の気持ちがわかるという境遇を活かして、そういう人の声を代弁するリーダーになってもいいと思いますよ。自信がないからとじっとしていると、どっちが前なのかもわからなくなっちゃうから、ちょっとは動いてみたほうがいい。そうすれば、こっちが前なんだとか、あらやだ後ろだったとかわかるから。

よく「軸がある」と言うじゃないですか。あれは動いているから軸ができる。いろんなことがあってもブレない人っていうのは、でんとして不動な人よりも、いろいろチャレンジして、失敗もしている人だと思うんです。私もそういう人に話を聞いてみたいし、自分もそうありたい。

ーこれを読んだ働く女性の方々には、どういうキャリアを築いてほしいですか?

大石:私は最近の女性活躍推進みたいな風潮が、あまり好きじゃないんです。だけど、追い風と感じる人なら、この風潮をラッキーだと思ったほうがいいんじゃないでしょうか。やりたい人が上に行きやすい環境なので、やる気がある女性にはチャンスだと思います。

武田:みんなキャリアの考え方やスキームが違うのだから、それぞれのかたちでやっていけばいいと思うんです。これからの20代や30代は、リーダーに求めるものとか、社会のあり方とか、考え方や枠組み自体が私の時代とは違うはず。だから自分のやり方を押しつけるつもりもないし、目指す必要もないと思うし。会社に属している限り、個人の成果を出すことはマストですが、それに加えてチームと自分がハッピーだったら、それでいいと思いますよ。

 

■What’s SAISON CHIENOWA?

クレディセゾンが立ち上げた「セゾン・ワークライフデザイン部」の最初にして、根幹となるプロジェクト。
それが、「新しい働き方と暮らし」をコンセプトにしたウェブサイトです。

名前は、SAISON CHIENOWA。

ワークとライフのバランスって?
自分らしい働き方、生き方って?

人間の「働く」と「暮らす」に複雑に絡み合った多くの問題。
それはまるで、パズルの「知恵の輪」。
だけど、知恵の輪なら解き方は必ずあるはず。

目指したのは、そのヒントが詰まったメディア。
「働く」「暮らす」に関わるたくさんの情報と色々な考えが集まった、本当の知恵の「輪」のような空間。

答えはひとつではなく、組み合わせたり、選んだりできる。
ここに来たひとりひとりが、自分らしい生き方を実現できるように。
そして、知恵の輪が解けた瞬間のような気持ち良さを感じてもらえるように。
「セゾン・ワークライフデザイン部」を中心に、当事者目線で選び抜いた良質なコンテンツを一か所に集め、共感とともにシェアして参ります。

未来の「働く」と「暮らす」は、今のわたしたちに直結しています。
だからこそ、今ここから、これからの生き方を皆でいっしょにデザイン・発信していきたい。そんな想いを込めたメディアです。

※こちらの記事は、SAISON CHIENOWAより流用しております。<流用元:https://www.saison-chienowa.jp/articles/EIi2Ywf2?page=1