静岡県立大学の国保祥子先生が主催する育休MBA講座をご存知でしょうか?
育休中の時間を利用して、スムーズな復職のために必要な思考技術を学ぶ、子ども連れで参加できる勉強会です。2018年春の復職予定者に向けたサポートの一環として、クレディセゾン社内で開催された同講座の様子を、復職前のママ社員がレポートします。
文:齋藤 智恵(CHIENOWA)
※こちらの記事は、「SAISON CHIENOWA」より流用しております。<流用元:https://www.saison-chienowa.jp/articles/v1bER9EQ>
短時間勤務で働くママは「扱いづらい存在」? 復職への漠然とした不安
私は昨年5月に第一子を出産しました。子育てで充実した育児休暇を過ごしながらも、子どもが1歳になるタイミングで、短時間勤務で復職しようと決めました。しかしいざ復職を決めると、社会に戻ることに対してワクワクした気持ちがありつつも、仕事と子育ての両立のイメージがまったくつきませんでした。
現在クレディセゾンは女性社員が7割を占めています。女性が働き続けるにあたっては、ライフステージを機に働き方を変える場合も多く、子育てをしながら働く先輩ママの姿を私もたくさん見てきました。保育園のお迎えの時間になると仕事を切り上げ、慌ただしく帰る姿を見ては「大変そうだな。仕事でフォローしなくちゃ」と思っていましたし、その気持ちを行動で示すよう心掛けていたつもりです。
しかし自分が子どもを持つ立場にたったいま、あらためて思い返してみると、当時は先輩ママ一人ひとりの気持ちや状況を理解していたつもりにすぎなかったのだなと思います。実際に自分が、残業できない短時間勤務で復職することを考えると、会社や同僚にとっては扱いづらい存在になる気がしてしまうのです。はたして働くママは「扱いづらい存在」なのでしょうか?
本来、短時間勤務は福利厚生ではなく、仕事と生活のバランスをとることでパフォーマンスを維持するための両立支援策だといいます。クレディセゾンでは、評価方法は短時間勤務でもフルタイム勤務でも変わりません。限られた勤務時間のなかで、フルタイム勤務と同等の成果を出すためには、何が大切なのか。不安になっていたとき、ちょうど今回の研修プログラムの案内が届きました。
MBAの講座当日の様子。お子さんを抱っこしながら受講する筆者(一番右)
このような講座には「勉強はしたいけれど、子どもを預けてまで行くのは申し訳ない」という思いがあり、参加できずにいたのですが、今回0歳の子ども連れで参加できることを知り、決意しました。これまで心のどこかで、子どもを言い訳に参加を諦めていた自分に気づきました。実際に講座を終えてみて、これから働くママとしてとてもありがたい場だったと思っています。復職に向けた不安がすべて消えたわけではありませんが、不安を解消するための鍵となる「考え方」を学べたことが、非常に大きな収穫でした。
広い視野が大事。参加者同士のディスカッションで、働くママに必要な「思考法」を学ぶ
今回のプログラムは計4回通学のコースで、育休から復帰した女性に発生しうるさまざまな業務上の課題をテーマにしたケーススタディーで構成されていました。それぞれのケースに対し、ディスカッションとリフレクション(内省的観察)を通じて多角的に考え、学びます。
短時間勤務で働くママたちが直面しやすい問題の原因として、「周りの過剰な配慮」や「理解のない上司」、短時間勤務を理由に権利を主張する「権利主張女子」などが挙げられています。そのなかで今回ケーススタディーとして取り入れられた「育児に理解のない上司」について、学びや発見のあったケース(以下参照)をご紹介します。
育休から復帰したら、同僚のサポート業務を任されるようになった女性。本心は、育休前と同様の成果を上げて評価されたいと思っているし、やる気もある。しかし、コミュニケーションの行き違いによって、上司からは「やる気がない」と誤解されている。
上記のケースを当事者の目線だけではなく、上司の目線、周囲との連携、お客様対応の観点などそれぞれの視点で考えます。
近くにママがいる安心感からか、先輩ママの腕で子どもは熟睡。その姿を背に、ママは講座に集中
研修では、参加者がケースについて自分自身で考えたあと、傾聴と自己開示(発言)を積極的に行うグループディスカッションに進みます。「想像力を働かせて」という先生の言葉に促されて、思いつく限り自分一人でも考えてみましたが、ディスカッションでほかの参加者の意見を聞くと「そういう考えもあったのか」と、はっとすることばかりでした。
ディスカッションのあとはリフレクション(内省的観察)に移ります。挑戦課題として「部下育成」「目標咀嚼」「多様な人材管理」など、9つの課題が与えられ、それぞれの気づきを自分なりに言語化して整理します。そのなかで私がいちばん気づきを得た課題は「マインド思考」でした。それはつまり、「当事者なら自分の思いを強く発信しなきゃ!」と個人の姿勢に原因を求める思考に偏りがちだったということでした。
ほかの参加者からはより広い視点から「政治交渉」。つまり「組織全体で短時間勤務社員活用教育に取り組み、当事者をロールモデルにする」という案が出ました。これにより、当事者個人が抱える課題が解決するだけでなく、短時間勤務社員という人材資源を組織全体の課題解決に活用できることにもなります。
当日のディスカッションの様子
このように、ほかの参加者とのディスカッションを通じて、自分にはなかった新しい思考法を学ぶことができました。今回学んだフローをぜひ実際の仕事に取り入れ、活躍しやすい環境に整えていきたいと思います。
同い年の子ども同士で触れ合う機会にもなり、プレ保育園のような雰囲気
予想外の連続にどう対処する? 夫と思いをすり合わせることも重要
子育てしながら働く際には、自分の想定を超えることが発生する場面が多々あります。本講座では机上で学ぶだけでなく、こうした事態をロールプレイで疑似的に体験することもできました。
たとえば代表的なのは、子どもの病気です。病気が長引き、自分が仕事を休めなくなったとき、みなさんならどういったことを対策として考えますか? プログラムを通じて私は、看病を家族に頼む調整をする、あらかじめ病児保育の登録をしておくなど、事前に対策をしておくことの大切さを知りました。
また実際に研修期間中、天候により自分の行動が左右されることもありました。受講日の2日目に雪が降り、受講場所の変更がありました。子どもの機嫌や体調管理、またベビーカー利用により歩調が若干遅くなることを考え、慣れない場所でも遅れずに到着できるよう余裕を持って準備しました。復職後は保育園の送り迎えもあるので、自分一人で行動するときの何倍も、天候の影響を頭に入れておく必要がありそうだ、と感じたできごとでした。
全4回のプログラムを終えた後、さっそく夫と家族会議を開きました。夫にも子育て中の部下が数名いるとのことで、「どんなこと勉強したのか教えて」と興味を持って聞いてくれました。ケーススタディーを一緒に考えることで、共働きのパパとしての立場と、子育てしている部下を見る立場、両面から気づくことがあったようです。復職後の子育てや家事の分担、仕事に対する思いや相手に期待することなどを話し合い、「まずはやってみよう!」と夫婦で一致団結しました。
また、国保先生が開発に関わっている「育休手帳」という復職支援ツールを会社からいただきました。なかには働くママへのメッセージ、業務振り返りシート、キャリアプランや家庭のプランを考えるシートなどがあり、予定表も自分と子どものそれぞれに分けて記入できるものです。試しに書き込んでみると、普段は意識していなかったのですが、子どもが楽しそうにしていると自然と自分も嬉しい気持ちになっていることに気づきました。自分の思いを再発見するいい機会になりました。
予定を書き込んでみた「育休手帳」。自分と子どもの予定管理と、その日の気づきが書き込めて、発見がいっぱい
子育てしている・いないで一括りにするのは間違い。すべての人を個人として尊重する大切さ
講座のなかで印象に最も残ったのは「クリティカルシンキングの重要性」についてです。物事を自分の思い込みで進めるのではなく、「それは本当に正しいのか?」と疑問を持ち、客観的な情報と幅広い視点からじっくり考察して本質にたどり着くことです。
ケーススタディーでは主人公や上司、同僚など、人によって抱えている背景、家庭、感情などがすべて異なりました。現実の世界でも、私の物差しで測った物事がすべての人に当てはまるわけでは当然ありません。また「子育てをしている人」「していない人」というグループで一緒くたに括れるものではなく、もともと「すべての人がそれぞれ異なる」ということをあらためて感じました。それは職場だけでなく、家族である夫に対しても同じことがいえると思います。特にこのことは、今後頭の片隅に置いておかなければならないと思いました。
講師が課題解決のための考察をわかりやすく解説
今回の研修では、プログラムから学びを得ただけでなく、参加者のママからもたくさんの刺激を受けました。「制約があるなかで働く罪悪感をどう払拭するか?」という課題が何度も議論に上がったのですが、これに対し「制約を理由に仕事の範囲を狭めず、少し高い目標を設定すると、クリアできたときに組織に貢献しているやりがいや自分自身の成長を感じられる」と言っていた先輩ママの話はとても参考になり、私もぜひ意識して取り組みたいと思いました。
復職した際には、いま想定している以上にたくさん悩むこともあると思います。ですがそんなときは、本プログラムで学んだ思考、プロセスを生かして、課題を自分のスキルに変え、働くママとしての強みの一つにしていきたいです。
-プロフィール-
齋藤 智恵(さいとう ちえ)
株式会社クレディセゾン社員。10か月の女の子のママ。現在育休中で2018年春に復職予定。
■What’s SAISON CHIENOWA?
クレディセゾンが立ち上げた「セゾン・ワークライフデザイン部」の最初にして、根幹となるプロジェクト。
それが、「新しい働き方と暮らし」をコンセプトにしたウェブサイトです。
名前は、SAISON CHIENOWA。
ワークとライフのバランスって?
自分らしい働き方、生き方って?
人間の「働く」と「暮らす」に複雑に絡み合った多くの問題。
それはまるで、パズルの「知恵の輪」。
だけど、知恵の輪なら解き方は必ずあるはず。
目指したのは、そのヒントが詰まったメディア。
「働く」「暮らす」に関わるたくさんの情報と色々な考えが集まった、本当の知恵の「輪」のような空間。
答えはひとつではなく、組み合わせたり、選んだりできる。
ここに来たひとりひとりが、自分らしい生き方を実現できるように。
そして、知恵の輪が解けた瞬間のような気持ち良さを感じてもらえるように。
「セゾン・ワークライフデザイン部」を中心に、当事者目線で選び抜いた良質なコンテンツを一か所に集め、共感とともにシェアして参ります。
未来の「働く」と「暮らす」は、今のわたしたちに直結しています。
だからこそ、今ここから、これからの生き方を皆でいっしょにデザイン・発信していきたい。そんな想いを込めたメディアです。
※こちらの記事は、SAISON CHIENOWAより流用しております。<流用元:https://www.saison-chienowa.jp/articles/v1bER9EQ>